2008年11月5日水曜日

アンダーグラウンド (村上春樹)

 地下鉄サリン事件の被害者一人一人にに村上春樹が直接インタビューして集めた体験談集。 『地下鉄サリン事件』 というひとつのテロ事件が日本人にとって一体どういうものであったか理解する上で,この本に勝るものはおそらく無いのではなかろうか。 

 マスコミによる地下鉄サリン事件の報道では,オウム側の犯罪手順や思想等について詳細な分析がなされたのに対し,最も苦しんだはずの被害者達は単に  『かわいそうな人々』 というカテゴリにひとくくりにされただけだった。 筆者は直接被害にあった人達の一人一人にじかに会って,彼らの生い立ちや仕事, 生活背景などについて細々と話を聴くことにより,地下鉄サリン事件というものが一人一人の被害者の人生において一体どういう衝撃であり,どういう爪痕を残 したのかを理解したかったという。

 何か物事を理解しようとするとき, 『木より森を見よ』 という言葉があるが,筆者は木の一本一本をつぶさに眺めることに徹していた。 また,本の中で筆者は  『自分が現在前にしているインタビュイーの一人ひとりを,個人的に感情的に好きになろうとつとめた』 と語っていた。 人それぞれが異なった生活背景や 人生経験,性格をもっているものだし,それぞれが人間社会のドラマの中で重要な役割を演じているものなのである。 人間の社会だけでなく歴史,文化や国家を見つめる場合も,そのことを忘れてはならないと感じた。

 アンダーグラウンド (講談社文庫)

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