司馬遼太郎の 『人間の集団について (中公文庫)』 に面白い話があった。
サイゴンの市場で,華僑による魔法のような金の儲け方についてだった。
たとえば,
「つがいのウズラを,高い値で買い占めている人がいる」
という噂を流すのだそうだ。
そして,実際に本人が市場にやってきて,げんに高く買う。
するとサイゴンの人々は,皆こぞってひとつがいのウズラを鳥屋で仕入れてきては,その人物に売るようになる。
そしてその人物は,二百つがいぐらいまで,どんどん高値にして買ってゆく。
ようするに,ちょっとしたブームになる。
その人物は,鳥屋とグルになっている。
やがてウズラが払底し,ウズラの値段が何倍にも跳ね上がる。
そして鳥屋で最高値のウズラが売れたところで,その人物は突然姿をくらますのだそうだ。
まさにブームの終焉である。 鳥屋はぼろ儲けである。
ウズラの値段の天井をつかんでしまった人は哀れなことになる。
本来ウズラというただの鳥でしか無かったものが,うわさを操ることによって何も無いところに降って沸いたような付加価値がつき,人々がまるで操り人形のように出費し,金がどんどん膨れてゆく。
しかし,一朝夢さめれば,ただのウズラにすぎないのだ。
ある日誰かが作り出したような即席の付加価値に喜んで大金を投じたりする薄っぺらい “ブランド志向” とか “流行モノ” “ブーム” というような現象が,サイゴンの市場でウズラのつがいを買い求める現象とよく似ている。 経済的無駄を人為的に作り出して儲けてるだけにタチが悪い。
司馬遼太郎はこの本を書いた70年代にすでにバブル経済の破綻を予見していた人だが,サイゴンの市場で日本のバブル経済の本質みたいなものを垣間見ていたようだ。
4 週間前
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